
第6回 ジーザスはリッチマン? 信仰エクササイズで富と健康を手に入れよう!
Text by 高橋ヨシキ
ワード・オブ・フェイス(信仰のことば)運動は、19世紀アメリカで生まれた新興キリスト教の一派である。ご多分に漏れず、ワード・オブ・フェイスも福音派の流れを汲むが、いわゆる「聖書根本主義」というわけではない。

福音派の特徴のひとつが、「神との個人的な交わり」を重視するところであることは以前にも述べた。文字通りの意味で、「自分が祈れば神さまが個人的に相談に乗ってくれる」と福音派の人々は信じている。テレパシーによる神さまとのホットラインを、個々の信者が持っているというわけだ。福音派の主流はプロテスタントだが、それもそのはずで、カトリックでは原則的に、信者が個人的に神と直接通話することを認めていない。それを認めたが最後、教会の位階制度がパーになってしまうからであり、カルト的な異端が発生するのを抑制するという意味もある。法王のみが「ホットライン」を持った「神の代理人」である、とカトリックでは考えるし、それが正統派とされる。そもそも“カトリック”という言葉自体「正統」という意味なので、カトリックが言ってれば全部正統に決まっているのだが、これは「本家」とか「元祖」と名乗るのと同じで、あまりフェアなテクニックとは言えないと思うが、2000年もやっているのでそれなりに重みがあるように聞こえるのである。
ワード・オブ・フェイス運動に話を戻そう。
アメリカ生まれの福音派が常にそうであるように、ワード・オブ・フェイスも「神との個人的な交わり」を重視する。重視しすぎると言ってもいい。なぜなら、ワード・オブ・フェイスでは、「テレパシー(彼らは「黙示」という)で神さまが俺にこう言ってるんだもん」という理由で聖書を否定することも多々あるからだ。これがいかに由々しき事態かは明白で、それはもはやキリスト教ですらないような気もするが、あくまで彼らが交信している(と称している)のはジーザス(という設定)なので、カトリックからするとおそろしく異端的であるとはいえ、一応キリスト教ではあるのだ。ワード・オブ・フェイスはペンテコステ派でもあるので、神との直接通信、聖霊の憑依、異言はすべて彼らの主張を裏付けるものとみなされる。
ワード・オブ・フェイス運動の世界観はキリスト教界にあってもかなり独特なものだ。
基本的にワード・オブ・フェイスでは富・健康・現世利益の追求は善いこととみなされる(!)。
ワード・オブ・フェイス運動初期の指導者たちは、「キリストはリッチマンで豪邸に住み、高価な服を着て大金を動かしていた」と主張する。なので、牧師が寄付で集めた金で購入したロールス・ロイスを転がすことは「ジーザスに続く者」として当然だということになる。アメリカン・ドリームの追求と信仰の交わるところに、ワード・オブ・フェイス運動が生まれたといってもいい。
さらにワード・オブ・フェイス運動では、「ボーン・アゲイン」した信者は「リトル・ジーザス」になったと教える。「“ボーン・アゲイン”によって受肉した我々は、ナザレのイエスその人と同質化したことになる。我々ひとりひとりがジーザスなのだ」。
当然のことながら、この教えは「非常に異端的である」として多くの批判を浴びている。
だが、「信仰を通じて、健康と繁栄がすべての信者に約束される」と説くワード・オブ・フェイス運動は多くの信奉者を集め、伝道TV番組「Ever Increasing Faith Ministries」は毎週1500万以上の家庭が視聴しているといわれる。
フレデリック・K・C・プライス博士は、カリフォルニアに本拠地を置く「クレンショー・クリスチャン・センター」を主催する牧師で、ワード・オブ・フェイス運動を説く人物だ。

そのプライス博士を師と仰ぐ、クレンショー・クリスチャン・センターの熱心なメンバーがビリー・ブランクス。そう、つい先日、娘を連れて来日しておおいに話題を呼んだ「ビリーズ・ブート・キャンプ」のビリーである。
ビリーはクレンショー・クリスチャン・センターに多額の寄付をしているほか、プライス博士のパーソナル・トレーナーも務める。
先に書いたとおり、ワード・オブ・フェイス運動では富と健康の追求は神の御心に沿ったものと解釈されているので、ビリー・ブランクスのあこぎなフィットネス商法は教義の実践そのものだ。事実、ビリーが主催するジムの壁には、座右の銘「行動を伴わない信仰に意味はない」が掲げられている。
もともとビリーは「タエ・ボー」の創始者として知られているが(タエ・ボーはテコンドーとボクシングを合体させたビリー独自の格闘技)、 そのタエ・ボーの教則DVDのシリーズには、ワード・オブ・フェイス運動の信者をターゲットにした「ビリーバーズ/内なる力」シリーズというものまである。アメリカ最大のキリスト教テレビこと、トリニティ・ブロードキャスティング・ネットワークにもビリーは登場した。
ワード・オブ・フェイス運動の熱心な信者であるビリーが、自らをジーザス自身と同一視している可能性は高い。よりリッチに、より健康になることで、さらにジーザスに近づけるのだとしたら(そんな話はキリスト自身は一切していないのだが)、ビリーの商売熱心もよりよく理解できるのではないだろうか。レッツ・ワーク・アウト! ノット! ヘイルサタン。
【参考文献】
『キリスト教帝国アメリカ ブッシュの神学とネオコン、宗教右派』(キリスト新聞社)
『アメリカ・キリスト教史 理念によって建てられた国の軌跡』 (新教出版社)
『宗教からよむ「アメリカ」』(講談社選書メチエ)
・What Is the Word of Faith Movement?
http://www.gospeloutreach.net/whatwordfaith.html
・THE WORD-FAITH MOVEMENT:AN EXAMINATION OF THE WORD-FAITH MOVEMENT
http://www.scionofzion.com/wof.htm
・Frederick K.C. Price (Wikipedia)
http://en.wikipedia.org/wiki/Crenshaw_Christian_Center
・Ever Increasing Faith Ministry
http://www.faithdome.org/
・Association of Faith Churches and Ministers Japan
http://www.afcm.jp
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